2012年11月26日月曜日

バブルを考える

投資なり経営なりをしていると、現在の景気が正常な好景気なのか、虚構のバブルなのかどうかを知りたと思う。むろん、正確に知ることなどできない。
だが、バブルになると、みんなが狂い始める。その中で自制するためには、バブルをかぎわける感覚が必要になってくる。どのように、現在の景気がバブルかどうかを判断すればいいのだろうか。

それにはバブルとはなにかを知る必要がある。「金融基礎力養成講座」の6章と7章に、景気の変動はなぜ起こるのか、そしてバブルの発生と崩壊のメカニズムがわかりやすく書かれている。この本を読んで総合し、私は正常な好景気か、それともバブルなのかを判断する材料として次のものを考えた。

・本来市場に参加すべきではない人間までが参加していないか
例えば、ゴルフ場の会員権売買について考えてみる。ゴルフ場の数は有限だと仮定しよう。そして、ゴルフのプレイヤー人口と人気が徐々に上がっていくとする。その場合は、ゴルフ場の会員権の価格も上がっていく。ここまでは当然の相場上昇ということができる。
ところが、その相場上昇を見た人が、「いまゴルフ場の会員権を買っておけば、きっと値上がりする」とゴルフをプレーしない人までが投資目的で市場に多数参加すると、相場は更に釣り上がっていく。これがバブルである。本来市場に参加すべきじゃない人間まで参加すると、あるべき価格以上に価格が上がるのだ。
ケネディー大統領の父親がニューヨークの靴磨きから、「旦那、なんか良い株ありませんかねぇ」という話をされて「株式市場はもう危ない」と感じて売却、その後市場が暴落して財産を守ったという逸話がある。事実かどうかわからないが、非常に興味深い話だ。
常日頃から、その市場に参加すべきではない人間が参加していないか、アンテナを張ろう。「主婦でもわかる株式投資」なる手軽な本が本屋でたくさん平積みされていると、それは株価バブルの可能性がある。投資に対して勉強をろくにしていないのに商品だの先物だのを、よくわからずに買っている人の話をあちこちで聞く場合は、それはまたバブルが疑われる。
また不動産を必要としない人間が相場の上昇を見越して、転売目的で土地を転がしたり、使いもしないリゾート地の別荘を買ったりする場合もバブル。そもそも価値が不当に低く評価されている株式、ちょっとリフォームすれば大幅に価値をあげられるのに安く売られているマンションなど、市場の歪みをつく裁定取引は商売の王道だが、単純な相場の上昇を期待した裁定取引などは邪道でありやるべきではないのだ。
まとめると、「市場に参加すべきではない人」とは、
「投資対象、経済、金融をよく勉強しておらずわかっていないアマ」、
「相場の上昇を期待した裁定取引をしている者(プロアマ双方)」、
「投資するほどの資産を持っていないのに投資活動しているアマ」、
「実際にその施設を利用しないのに、相場上昇を期待して、もしくはステータスのために買った会員」
のことだ。彼らが多数市場に参加していないか、注意する必要がある。ただ、市場参加者にどのような人間がいるかは、指標からはわからないことが多い。常に社会に対してアンテナを張っておく必要があるだろう。

・リスクプレミアムが小さ過ぎないか
例えば、銀行普通預金の金利が1%、東証一部全銘柄の株式益利回りが5%としよう。この差、4ポイントがリスクプレミアムだ。このリスクプレミアムがどのくらいになるとバブルなのか、そのしきい値は過去のバブル崩壊の事例をもう少し研究する必要があるかもしれない。ただ、バブル期には往々にしてリスクが過小評価され、プレミアムが小さくなることが多い。ちなみに1989年のバブル絶頂期の株価はPERで60倍(益利回りで1.7%)になったという。個別の企業の場合は利益成長などでPER60倍でも説明がつく場合があるのは認める。しかし、東証一部の全銘柄の予想PER平均が60倍は、金利との関係でも説明がつかない。
日経平均が上がった下がっただけではなく、PERの動向にも注意して観察しようと思う。

・高レバレッチが横行していないか
例えば、あなたが余剰現金10万円持っていたとして、これで株を10万円の株を買ったとする。その株価が9万円になった。ファンダメンタルズは特に変わっておらず、通常の相場変動だったとしよう。あなたはこの株をどうするか。ロスカットのルールを厳しく設定していない限り、簡単には手放さない可能性が大きい。
では、あなたはあるファンドのマネージャーで、そのファンドの純資産が1万円とし、9万円の借金をして、10万円の株を買ったとする。これは財産1万円しか持っていないはずなのに、借金により10倍の資産を運用していることになる。これがレバレッジ10倍である。そしてこの株が1割下落、つまり9万円に下がった場合はどうなるか。これ以上値が下がると、債務超過になる。個人がちょっとした債務超過になった場合なら問題ないかもしれない。しかしビジネスの世界では、債務超過は市場から厳しい目で見られ、資金調達などが困難になる。その場合、あなたはこれ以上株価が下がる前に、10万円の株を9万円で売らざるを得なくなる。このようにレバレッジをかけると、リスクの耐性が弱くなるのだ。
単純に考えると、レバレッジの逆数(レバレッジ10倍なら、10%。20倍なら5%)がリスクの耐性、すなわち許される資産下落率なのである。高レバレッジでも、資産が簡単に下落しない国債などで運用されているなら話は別だが、そもそも、そんなローリターンな資産を借金してまで買うわけ無いのだ。
多くの市場参加者が高いレバレッジを掛けて取引をしていると、相場下落の際にレバレッジ解消のため資産を急いで売り払おうとして相場がさらに急落する。つまりバブルが破裂するのだ。バブル期には、相場上昇を期待しないと説明できないほどのレバレッジが横行したりする。リーマンブラザーズも、破綻直前の2007年には30倍のレバレッジになっていたらしい。(外資系金融機関の終わり)
市場参加者のレバレッジについてもアンテナを張っておく必要があるだろう。

・リスクを取らなくても稼げる金融ビジネスが横行していないか
例えば、あなたが他人のAさんにカネを貸すとしよう。その際、あなたは「こいつは、ちゃんとカネを返してくれるか」と、Aさんを真剣に審査し、リスクに応じた金利をAさんに要求することになる。これは健全な経済である。
次に、あなたは審査能力がないため、クレジットデフォルトスワップというデリバティブを利用する場合を考える。これはプロテクションセーラーと呼ばれる保証機関に、「手数料を払いますので、金を貸したAさんが返せなくなったら、その分を立て替えてください」とお願いするのだ。この場合は、プロテクションセーラーがAさんを真剣に審査し、そのリスクに見合った手数料を、あなたもしくはAさんから要求することになる。これも健全な経済である。
最後に、証券化を考える。上記のプロテクションセーラーが、債権を証券化してそれを一般投資家に売り、金を貸し借りする当人からではなく、一般投資家からの手数料を稼ぐビジネスを開始したとする。ここまで来ると、プロテクションセーラーは債務不履行が発生しても損するのは自分ではなく一般投資家だし、証券化による手数料を稼げるため、真剣にAさんを審査しなくなる。またリスクが移転できるので高レバレッジをかけるようになる。一般投資家も、直接Aさんを審査しているわけではないのに、高利回りを期待して証券を買う。こうなったら、Aさんたちは身の丈に合わない過大な借金が可能になり、それにより身の丈に合わない買い物ができるようになり、先に上げた「市場に参加すべきでない人」が市場に参加しバブルになっていくのだ。
市場参加者や金融機関が真剣に債務者を審査する仕組みが働いているのか、金融ビジネスの動向にも関心を持っておく必要がある。


逆に景気の底についても考えてみた。景気の底を判断する材料として考えたのは次の通り。



2012年10月12日金曜日

読書感想文 「人間失格」


 人間失格は、太宰の死後50年が経過しており、すでに著作権が切れている。そこで、青空文庫からePubに変換して、iPadに取り込んでiBookで読んでみた。太宰の「人間失格」と、夏目の「こころ」は、何十年にもわたり累計部数を争っているらしいが、私は著作権が切れた書籍を紙で買う連中を理解できない。ネットで無料で読めるというのに、なんでそんなに紙がいいんだろうか・・・・。

 さて、感想だが、はっきり言って書いてあることの半分も頭に入ってこない。文章の情景が鮮明に浮かんでこないのだ。アタマが悪いからか、純文学をほとんど読んだことがないからか、時代背景が古いからなのか、文体が古く読み慣れていないからか、それとも太宰の文体が私に合わないのか・・・。多分全部だろう。学生時代の国語の成績は散々だったので、読解力の無さは自分でも自覚している。
しかし、読み切ろうと心に決めたので、情景が鮮明に浮かばなくてもとにかく文を目で追い、読み通した。同時にWikipediaであらすじを確認しながら小説の内容理解を補完した。おかげで、なんとなくだが、人間失格の内容が理解できた。

 で、心に残った点をあげておく。

 まず違和感を感じた点。私は最初の「はしがき」に強い違和感を感じた。はしがきの「私」は「その男」の1枚目の写真、幼年時代の写真を「醜く笑っており、なんて嫌な子供だ」と感想を述べているが、大の大人が、嫌な思いでしかない自分の子供時代の写真ならいざしらず、他人の子供の頃の写真を見て、そんな感想を持つというのが理解できない。3枚目の写真にいたっては、「特徴も表情もなく、写真を見て目をつぶると、顔を思い出せなくなる」などと書かれているが、そんなことあり得るのだろうか。

 次に共感した点。「第一の手記」ででてくる痰壺のおしっこをしたことを恥ずかしそうに作文に書いて演出した場面。そして、「第二の手記」の竹一に道化を見破られた時の葉蔵の混乱ぶりである。なぜ共感できたのだろうか。多分自分にも同じ経験をしたことが過去にあったからだろう。でも、どんな経験だったのか、具体的に思い出せない。それは私の深層心理に奥底に深く刻まれており、催眠術でもかからないと記憶の引き出しから引き出せないのかもしれない。私も他人の目をきにして、自我を殺していた不安定な時期があったのだろう。

 「こころ」にせよ、「人間失格」にせよ、後年高い評価を受ける純文学は、人間の深い葛藤や悩みを描いている。それを共感できるには、もう少し人生経験が必要なのだろうか。人間失格は名著であり、読了によって教養が1つ増えた達成感はある。しかし、もし名著としての不動の評価が世間になかったら、たぶん「素晴らしい本を読んだ」とは思わなかっただろう。やはり私には大衆小説が向いている。

2012年5月22日火曜日

検算の研究



このまえ、なんとなく、本棚から高校数学のテキストを引っ張り出して、いくつか問題を解いてみたのだが・・・。導入部分の簡単な計算ならいざ知らず、ちょっと進んだ普通の問題は50%くらいの確率で計算ミスしてしまった。ショック・・・・
さて、ここで計算ミスをどうすればなくなるかを考えてみた。たくさん反復演習して、計算の速度と精度を向上させるというのも1つの手かもしれない。しかし計算力は筋力と同じで、ちょっと演習をサボっているとすぐに能力が落ちてしまうものだと思う。受験を控えたが学生なら意味のあることかもしれないが、社会人がそんな計算演習を繰り返しても意味ないような気がする。そんな力技よりももっと知的なやり方を、一度身につけたら、そう簡単には衰えない技法、「検算のノウハウ」を確立することの方がよりスマートだ。でも、中学校くらいまでは、先生から、「答えが間違ってないか、検算するように」言われていたが、検算について体系的に教わったことはなかったと記憶している。そこで、このエントリーでは検算について考察してみたい。

1.検算にはどのような方法があるか

いろいろ考えたのだが、検算には逆算、代入、概算、再計算の4つの方法があるんじゃないかと思う。

①逆算

答案から問題へ、逆方向に計算、論理展開を進める方法だ。たとえば
・因数分解の問題で答案を展開する
・積分の問題で、答案を微分する
・二次方程式の問題で、答案から方程式を作る
など

②代入

式に具体的な値を代入することでミスを検出する。たとえば
・因数分解の問題で、展開された問題式と因数分解された答案式にそれぞれ具体的な数字を代入し、同じ結果が出るかを確かめる。
・方程式の解を方程式に代入し、間違いないか確かめる。
・数列の一般項を求める問題で、答案に1,2,3を代入し、第1項から3項までの数と照合する。

③概算

おおよその数を計算し、答えが間違ってないかを確かめる。たとえば
・$\pi  \approx 3$ として長さもしくは面積の概算数値を算出し、図の中で整合性が取れているかを確認する。
・$\sqrt{3} \approx 1.7$ と概算して答えを確かめる。

④再計算

再度、同じやり方で問題を解いてみる。

以上、検算の方法を考えてみたが、実際の試験では、以上の検算の中から、その問題に最も有効な検算を素早く選び、実行する必要がある。しかし、どのような基準で検算方法を選べばいいのだろうか。

2.検算方法の選定基準

いい検算とは、簡単であること、答案のときとは別のアプローチであること、直感を刺激すること、などが上げあれる。

・簡単性

答案作成までと同じ時間、脳力を消費するのでは、検算としては適切とは言い難い。短時間に、頭が疲れずに答案が間違っていないか検出できるのが、いい検算だ。

・別アプローチ性

何かの思い込みで計算してしまっていた場合は、見直しの際も同じ間違いをしてしまう可能性が否定できない。検算は答案作成時とは別のアプローチで確かめたいところだ。

・直感刺激性

数学の答案は、結論までに何重もの論理を重ねることになる。論理展開していくうちに、直感は薄れていき、答えが出たときは、それが妥当なのかの勘が働かなくなる。そこで検算では、直感により答案は妥当なのかを確かめたい。

以上の性質に注意しながら、4つの検算について再検討する。


3.検算方法を再検討

①逆算

式の展開は機械的にできるが、因数分解にはアイディアが必要になる。同様に、微分は簡単だが、積分は難しい。このように考えると、式の展開や微分の問題は、逆算である因数分解や積分は難しくなり、検算の簡単性を満たさない。逆算を検算として利用する場合は、因数分解や積分の問題など、逆算の方が答案作成の時より簡単な場合に限る。

②代入

代入は、方程式の解を求める問題などでは有効だ。2次方程式で、解が整数だった場合は、代入して確かめるといい。(無理数の解の場合は、逆算を選んだ方がいいかも)
因数分解など、式の変形などにも、代入は検算として力を発揮する。その場合は、適当に値を選び、式の出発点(問題)と終着点(答案)に代入することになるが、どのような数値を代入すれば簡単に計算できるのかを留意して数値を選ぶ必要がある。値の候補は、0,1などだが、簡単な値を1個しか代入しないと、間違いを検出できないことがあるので複数個試したい。
また、連立不等式の検算にこの方法を適用する場合は、ソフトウエアテストのブラックボックス法である境界値分析や同値分割を適用して値を複数選ぶべきだ。なお、境界値分析は問題から代入すべき値が決定されるため、任意に値を選べないが、同値分割の場合は、範囲内で任意の値を選べる。境界値が単純な整数でなく、計算が面倒で境界値分析を回避する場合、少なくとも同値分割ではすべての同値範囲から値を1つずつ選び、すべて検算を行いたいところ。

③概算

この方法をつかって検算する場合は、左脳ではなく右脳を最大限に活用し、数値を正確に計算することではなく、数値を感覚で把握することに注力する(検算の直感刺激性)。感覚を研ぎ澄まそう。式変形の際には、=ではなく$\approx $を駆使し、たとえば、$83+\frac{1}{83}$ なら、$\frac{1}{83}$の部分は全体の数値に大きく影響を与えないので計算せずに0と見切ってしまう。
 $83+\frac{1}{83} \approx 83+0\approx 83$  このようにして、検算の簡単性と直感刺激性を両立させる。
この方法は、図形問題に利用する場合が多い。また代数計算の問題の場合には②代入と同時に使う場合が多い。
なお、この検算方法を素早く行うために、
$\sqrt{2}\approx 1.4$
$\sqrt{3}\approx 1.7$
$\sqrt{5}\approx 2.2$
$\sqrt{6}\approx 2.4$
$\sqrt{7}\approx 2.6$
$\sqrt{8}\approx 2.8$
くらいは覚えておきたい。

④再計算

この方法は、先にあげたいい検算の条件を全部満たさない。とくに、検算の「別アプローチ性」を満たさないのは致命的で、検算とは言えないかもしれない。試験時間が余り、かつ他の検算方法が使えない場合のみ使うことになるだろう。


再度、これらの検算方法を駆使して数学の問題を解いたら、面白いように自分のミスが検出できた。解答を見ないのに、解答を見て確かめているような気分になった。

高校数学を学ぶ場合は、古くは「チャート式」、最近では「本質の研究」などのテキストを使うのだろうか。しかし、これらのテキストでも、検算の重要性や方法論は触れられてないように思う。数学の勉強をする場合、「この問題はどのような検算が有効だろうか」と常に留意しかつ検算を実行すると、正確に数学の問題を解く力がつくのではないだろうか。